好調な日本国内のデータセンター事業

新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、「データセンター」という言葉がこれまで以上に浸透しました。人と人との交流が制限される中、ビジネスや日常生活のあらゆる場面で、情報のデジタル化と消費の加速が進み、その後も不可逆的な現象となっています。こうした需要に応える形で、関東や関西を中心に多数のデータセンターが建設され、外資系事業者が市場の成長を牽引しています。

また、生産性向上や慢性的な労働者不足を背景に、DX(デジタルトランスフォーメーション)やAIなどの先端情報技術の導入が不可欠となり、データセンター建設はさらに加速しています。経済産業省の情報通信白書によると、2024年の市場規模が前年比15%増加し、約2兆円に達する見通しです。さらに、2027年には、4兆円を超える市場規模に成長することが見込まれています。

ビジネス環境の大きな変化

一方、データセンターは単なるITサービス提供施設から、不動産取引の資産としての側面も強まっています。EquinixやDigital Realtyが上場しているREITに加え、外資系企業の参入を支えるPrivate Equityの資金力が目立ち始めています。高性能な機械設備や電力設備が必要なことから、他のアセットと比べて投資額が大きく、従来の事業者単独での負担は大きいのが現状です。

さらに、クラウド技術の発展により、データセンター利用者であるハイパースケール・プロバイダーの影響力が拡大するとともに、基本仕様のコモディティ化が進んでいます。加えて、Private Equityが運用するファンドは、償還期限が設定されているため、エグジット(売却)と高い流動性が求められます。このため、坪単価や収益性が高いデータセンターは今後も注目され、不動産商品としての影響を受け続けると考えられます。

また、建設コストの上昇、労働者不足による工期の延長や遅延、さらに高負荷GPUの冷却を目的とした新技術の導入など、市場環境は刻々と変化しています。事業計画は初期の段階で一律に固めるのではなく、外部環境の動向に応じた柔軟なアップデートが求められます。開発期間は長期に及ぶため、市場の変化や傾向を正確に読み取るリスク認識力が必要不可欠です。

複雑化する開発・運用リスク

従来、不動産開発では自然災害、土壌汚染、複雑な法体系といったリスクが存在していましたが、現在はさらなる課題が浮上しています。先に挙げた環境の変化に加え、特に地域住民の理解や電力調達の難しさが顕在化しています。たとえば、特別高圧電力の受電に5年から10年と長期に渡るケースも少なくなく、データセンターの無機質な外観が地域住民の反発を招く事例も少なくありません。

このように多様なリスクが絡み合う状況では、開発プロジェクトの生命線である電力調達に過度に注力するあまり、他の潜在的リスクが後になって顕在化する可能性を、常に念頭に置く必要があります。さらに、不動産としての売買機会の拡大や、Private Equityの資金源として年金基金や公的資金が関与する点から、投資家側にはESG(環境・社会・ガバナンス)やサステナビリティの視点を踏まえた正当な評価が求められています。

俯瞰的な判断力による変化への対応

市場環境の変化が見込まれる中で、情報の鮮度と現場での実体験に基づく判断が極めて重要です。デジタル化が進む中でも、遠隔で集めた表面的な情報だけでは、本質に迫る判断は難しく、実際にビジネスの現場に身を投じて得た情報や体験こそが、真の課題や変化の本質を浮かびあがらせます。しかしながら、プロジェクトが始動すると、事業者は自社業務に専念せざるを得ず、どうしても内部視点に偏る傾向があります。そこで、異なる専門分野をもつ第三者との連携を通じて、俯瞰的な視点を維持し、複雑化する事業環境やリスクに対して柔軟に対応する体制を築くことができます。このような協働は、チーム全体のケイパビリティ(能力)を飛躍的に高め、プロジェクト成功へと導く鍵になります。

ERMのサービス

ERMは、急成長するデータセンター市場の背景と複雑化するリスクを緻密に分析し、クライアント企業の戦略策定と実行支援を通じて、事業ならびにプロジェクトの成功に貢献します。現場の実情と最新技術を融合させたリスク分析および戦略的アプローチにより、クライアントが変化するビジネス環境を見据えた意思決定を行えるよう支援いたします。私たちの提供するサービスは、企業の持続可能な成長と競争力の強化に寄与します。

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